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なんということはない日常
CAST
ジャスパー:休日の軍人(main)
クレア:高校卒業したての10代(air)
xxx:故人(air)
CAST
ジャスパー:休日の軍人(main)
クレア:高校卒業したての10代(air)
xxx:故人(air)
時刻は10時、
場所は大通りのショップ。
ここからは指定したその待ち合わせ場所がよく見える。
行き交う人々の合間合間に薄茶けた時計塔がちらつく。
ずらずらずらずらと並ぶ待ち合わせの人たちの中、きっかり10分前に現れた女性を見て思わずひとり笑った。
妙に真面目なところがあいつとよく似ている。
今日はスカートか~気合い入ってるな~。心の中で呟いた。
しばらく彼女の姿を眺めてから、立ち読みしていたマガジンを購入し店から出る。
待ち合わせ場所の頭上の時計は9時58分を指していた。
「遅刻じゃないにしてもギリギリじゃない?」
こちらから声をかけるまでもなく、ジャスパーの姿を見るなり彼女はそう言った。
「悪い悪い、鳩の餌やりに夢中になってて遅くなった。よ、クレア久しぶり」
「うん。久しぶりー。半年ぶりくらいだっけ」
いかにも嘘くさい言い訳に眉をひそめながらも、雑談に応じる表情はすぐに明るくなる。
今日はたしか服屋に寄って表通りでランチして映画。プランは完璧だ。
女子高校生から脱したばかりの、この春大学生になる彼女にはそれなりに満足できるデートだろう。そこから先は個人的に立ち入り禁止だと常々告げてある。
じゃあまずは買い物からね。そう言って、あどけなさとおとなっぽさの混在した、少しだけ意地悪そうに笑う彼女を眩しく思った。
目的地に目星はついてるのか、迷いなく進む足取りは軽やかだ。
普段は入りにくいショップだけど!年上の大人連れだし!とクレアは意気込んでいる。言葉の裏には「財布はまかせた」というニュアンスが込められているが。
彼女の兄が亡くなって6年、それはつまりクレアが天涯孤独の身の上になって6年ということだ。
給料のうち何割かだけ・・・と言ってあるが実際は給料のほとんどの額のそれを、彼女に資金援助している。他に使うところも無いので一向に構わないのだが。
死んで手に入る額なんてこれっぽっちかよ。そう無感情に呟いた記憶はまだ色褪せてない。
血のつながりもなんにもないただの兄貴の友人に援助してもらうなんて、と渋るクレアを「将来、医者か弁護士にでもなって堂々と返してくれよ」といってねじ伏せた。
そう言い聞かせて6年だ。法学部に合格した彼女は努力家で素直で優秀なのだろう。
だから、今日のこれはまず間違いなくご褒美である。
道中あたりさわりのない雑談をして、着いたショップはそれはそれはもう洒落た小奇麗な服屋だった。
これどう?とか、こっちのほうがいいかなーとか。
クレアとのそういうやりとりを微笑ましく思いながら、なにを見るわけでもなく店内を眺める。
メンズコーナーで買うつもりもないがなんとなく春物の茶色いジャケットを手に取ったりしていると、
「あっ、いいじゃん、それ試着してみなよ」
ちゃっかりとクレアが覗き込んでくる。
「似合わないだろー」
「いけるいける」
「いやもう30前なんだけど。認めたくねーけどさ」
「ジャスパーはガキっぽいから、いけるいける」
軽い押し問答になっているところを目ざとく店員に声をかけられ、すすめられるがままに袖を通した。
まあ悪くないかな。鏡越しに自分でもうすぼんやりとそう思った。
買っちゃえ~!と少女の野次が飛んでくる。これは買わないと文句を言われるパターンだ。
「OKわかった、買ってくるからお前も自分のちゃんと選んどけよ」
らじゃーであります!との敬礼を受ける。かっちりとした陸軍式敬礼に微笑みと空恐ろしさが重なるが、それは胸のなかに押しとどめた。
自分のワンピースなどを見ているクレアを尻目に、店員に耳打ちをひとつして会計した。
それからまた十数分は待たされただろうか、紙袋片手に店を出る。
財布の紙幣の何が何枚消えたかはあまり考えないことにした。
思ったほど買い物しなかったのは、彼女なりの遠慮があるのかもしれない。そんなことを考えた。
当初の予定通り表通りで昼食をとって、ここでもやはりあたりさわりのない会話をして、映画の時間が来るまで待つことにした。
なんだかようやく落ち着いてきた気がする。
どちらかというと普段おとなしい類のクレアであるが、もう28も半ばの自分には十分騒がしく感じる。
騒がしいのは慣れっこだし、自分もなかなか騒がしいほうではあるが。彼女が持つのは、仕事場の喧騒とは違う、溌剌としていて甘ったれた黄色い声だ。この姦しさをつくづく平和だなと感じるので、彼女と会うのは嫌いじゃない。
食後の紅茶を飲んでいたクレアが、そうだ!と声を出す。
「ねえ、さっきのジャケット見せて」
女の勘って鋭いよなあ。このときばかりはジャスパーも内心手を上げた。
女ってのは本当に勘が鋭い。スナイパーにするなら女のほうが有利だな。胸の中でごちる。
黙って紙袋を渡した。
中を見たクレアの目の色が見る間に厳しくなる。
「なんで黒のジャケット買ってるの」
「あ~これ?店員が間違ったんじゃね」
「うそ」
「茶色は似合わないんだオレは」
「似合うよ!!!!黒のがよっぽど似合ってない」
ほんと黒なんて似合ってないのによく着るよね・・・・となかば独り言をこぼす彼女。
悪いことしたかなとは思えど、まるで反省はしていない。
どうしても黒い服ばかり買ってしまうのは、もはや死ぬまで治らない病気だ。死んだら治るかもしれないと思うとなんとも愉快だし、そのときが楽しみでもある。
あの世でならいくらでも茶色を着こなしてみせるのに、それを見てくれる相手はいるんだろうか。
注文したブラックコーヒーは、ブラックコーヒーのくせにカップを揺らすとどこか茶色じみて見えた。
「・・・・私ね、」
機嫌を損ねて黙っていたクレアだったが、道行く人々の流れを眺めながら口を開く。
「このまえ、反戦デモに、参加したの」
ひといきだけ、返す言葉に逡巡したのを隠すようにコーヒーを口に含んで飲み込む。
発した声はいつもどおり。
「・・・そりゃあ結構なことだ、平和が一番」
「可笑しいでしょ、軍人の兄が戦死したといったらみんな優しく受け入れてくれたわ」
「受け入れるっていうのは結構体力使うもんだぜ」
「そうかな」
「このコーヒー、苦いな」
あとからじわじわと舌に沁みてくる苦味に、顔をしかめた。
言葉尻を押さえ込まれたクレアはなおも続ける。
「卒業旅行、ほんとはカロスに行くつもりだったの。楽しみにしていたのに」
「やめとけよろくでもない、海外ならシンオウがいいぜー!
綺麗だし、ファンタジックだし、余暇にはぴったりだぞ」
戦争の影響もあって友人たちとは国内旅行で済ませた、と道中で話していたのを思い出す。
カロスは自分たち二人にとっては、どうしても苦い地だ。この苦々しさを共有できるのは、この世で自分と彼女だけ。
シンオウの雪原や花畑の話をしながら、綺麗な白い粉雪でまぶされていく話題。自分でも吐き気がした。
カロスってどんな国なのかしら。まだ少女じみた頃のクレアがよく言っていた。彼女が執着する理由は明確で、そしてそれを素直に口に出せるのはまだ幼かったからだろう。そのたびにジャスパーは「悪人だらけのおっかない国で、悪いやつが死んだら行くところ」と冗談かつ熱心に説いてみせた。
そうはぐらかしてごまかせるのはいつまでだろうなあと思っている間に、すぐにクレアはぱたりとカロスのことを言わなくなった。女の心の成長は恐ろしいほどに速い。
「シンオウはね~新婚旅行で行きたいの!結婚式もシンオウでやりたいわ」
「あーいいね、軍部でもそういうやつたまにいるよ」
「私の結婚式ちゃんと来てね」
即座に反応はせず、ひとつ間を置いたのは咄嗟のことだったからだ。
そのときに自分はこの世にいるのか?
答えのない疑念。
「もちろんだよ」
まるで一晩限りの恋人に接するかのように、薄っぺらな返事だった。
「本当かしら」
「信用ねぇのな~。
・・・お前は父親も兄貴もいないだろ、あいつの代わりにヴァージンロード一緒に歩いてやるから安心しろ」
「それもいいけど、神父様の前で白いタキシード着て待っててくれてもいいのよ」
口に含んでいたコーヒーを噴き出しそうになった。我が耳を疑う。言葉の意味を反芻した。
装填、スライド、コッキング、視認、照準、発砲、着弾、排莢。
冗談にしては質が悪すぎる。あまりに面白くない冗句だ。
クレアが平然とした素振りで紅茶のカップをなぞる。
その仕草に女っぽさよりも子どもっぽさを感じてしまうのが現実だ。
「あのさ、お前そろそろ俺に飽きたら?
俺は軍人なの。ろくなことがないのは兄貴のことでよく知ってるだろ」
「自意識過剰ね、冗談よ冗談。ジャスパーはお兄ちゃん枠!ヴァージンロード頼むわよ」
「お兄ちゃんねえ・・・・」
それはそれでどうにも引っかかる。
こうも揺さぶりをかけてくるか、とクレアに対する認識を改めた。
そうだ、彼女はもうガキじゃない、立派なレディなのだ。
「俺はお前の事確かに妹みたいに思ってるし、俺がお前の兄貴になってやれればよかったんだけど。
お前の兄貴はあいつだけだろ」
カップに残ったコーヒーを一気に飲み干す。
やはり、苦い。
クレアがまだ何か言いたげにしているが、無視を決め込んだ。
兄貴代理、くらいならやってやらないこともない。
デートごっこ、もまだ許せる範囲だ。
但し、アウトとセーフの駆け引きをするような存在じゃない。なにせ大事なxxxの妹だ。
「わり、ちょっとトイレ」
そういって立ち上がり、席をあとにする。クレアはさっさとしてくれとばかりに肩をすくめる。
ジャスパーの背を見送りながら、逃げられた、と彼女は思った。
こうして窓を開けて空気を入れ換えるのが彼は得意だ。
戻ってきたら絶対誘導されずに話を蒸し返してやると心に決め、神妙な気持ちで、なんとなくジャスパーが持っていたマガジンを手に取る。
大衆音楽の情報誌だった。
-君の遺したこの想いを永久に。
-哀しみだけの世界じゃない
-カロスミュージックの歴史、そして今私たちに出来ること
先月亡くなった歌姫の、そんな煽りが目を引く。
あいつこんなの読むんだ。そんな気持ちでページをめくってしばらく眺めていると、バッグの中の携帯端末が鳴った。
ディスプレイは、先ほど席を立った彼の名前が浮かんでいる。
「なあに、トイレで迷子にでもなったの。ていうかトイレからかけてこないでよ」
「ごめんて。なあお前さあ、今日の香水ディオール?」
「は?」
「違った?」
「いやそうだけど」
「俺は嫌いじゃないぜ、それ」
唐突な会話に面食らって素直に ありがと と返す。
そこでふと、少しだけ穏やかな声と、その後ろから雑然と聞こえてくる物音の違和感に気付いた。
「・・・・そこ、トイレじゃないでしょ?どこにいるの」
「ん~~?察しがいいな。今バス停。俺腹痛いし帰るわ。」
「はああ?」
これまた唐突な発言につい語気が荒くなる。近くにいた客、店員、歩行者が皆一斉にクレアを見た。
赤面して、ぐ、と息をついたもののジャスパーに対する言葉は止まらない。
「なによおなかいたいの?ほんと?うそでしょ!だってトイレ行くってのもうそだったもんね!
なんで帰るのよ今日このあと映画見るって言ったじゃない!」
「アーアー、ハロハロ、電波が悪いな。これも戦争のせいだな!
よく聞こえねーから俺も言いたいことだけ言うけど、」
無理やりクレアの声を引っ込めさせて、男は続けた。
「そのカフェのレジ払っておいたから。あと雑誌開いてみ、折ってるページ」
むかむかする気持ちを抑えながら、言われるがままにクレアはマガジンを開く。
そこには端が少しよれた紙きれが2枚挟んであった。
「それ、入学祝いな。彼氏でも作って行けよ」
少しメタリックな加工のそれは、ISHのアミューズメントパークのペアチケット。
特別室の宿泊券付。有効期限は年内。
なかなか学生の身分では手の届かない価値を持ったそれを、ぴっと弾いた。
わかりやすく憮然とした声で、携帯の向こう側にいる、世界で最も憎たらしい相手に不貞腐れる。
「どうせ戦争してるから行けない」
「だからさっさと終わらせるんだよ戦争。」
byeの声が聞こえるか聞こえないかの速さで通話は途切れた。一方的に切られたのだ。
腹いせに何度もコールするが、そのうち着信拒否されてしまった。この拒絶が解けるのはいつになるんだろう。
よく見てみれば、ちゃっかりとジャスパーが座っていた椅子に置いていたショッパーは持ち帰られていた。忽然と消えてしまって、痕跡もなく、まるで本当に幽霊かなにかのようだ。そう思うとまた一段と腹が立ってくる。
まるで自分が戦争を終わらせるみたいに言ってくれるじゃない。たかだか三下の一兵卒に何が出来るっていうのよ。
煮え切らない怒りがぐるぐると頭の中を巡る。
思わず、口汚い短いスラングを吐き捨てる。一番のお気に入りのディオールの香水が台無しだと自分でも思った。
それもこれも全部まとめて戦争のせいだ!
戦争なんてさっさと終わってしまえ!
突然死したとされるうら若き歌姫を再評価と称して今更スポットライトを浴びせる記事。
軍本部のフェンスの向こう側でプラカードを掲げるひとたちのシュプレヒコールと、その合間合間に起こる談笑。
すぐ手に届く範囲にあるそれらは、でもとても遠い出来事のようで、何もかもくだらない。
兄でも男でもない彼は、じゃあ自分にとって一体なんだというのか。
彼にとって自分はなんなのだろう。
「あんたなんかに本気出すわけないでしょ、ばーか」
ジャスパーの座っていた向かい席の椅子を軽く蹴飛ばし、破り捨ててやろうと手に取ったアミューズメントパークのチケットを、思い直してマガジンごとかばんに押し込んだ。
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